鳳凰単叢鴨屎香

鳳凰単叢鴨屎香

鳳凰単叢鴨屎香
2015年11月19日タグ: ,

「中国で一番飲まれているお茶は緑茶」というのが定説で、昔の書籍などでは「7割から8割が緑茶」ということになっています。

それが生産量なのか消費量なのか調べたことはないのですが、そういう数字をだしている機関があるのは確かなのだろうと思います。

体感的には、福建省ではやはり烏龍茶がよく飲まれていて、10年前の福州だと7割から8割が鉄観音、あとの半分は武夷岩茶、残りの半分がそれ以外という印象でした。

最近になって、正山小種や金駿眉などの武夷紅茶、また福鼎白茶が怒涛のトレンドとなり、知り合いの家にちょっとお邪魔するととりあえず小種紅茶がでてくるということも珍しいことではなくなったような気がします。いまのアモイだと鉄観音の体感比率は4割から5割くらいに低下しています。

もちろん福州やアモイで緑茶が飲まれていないわけではなくて、春の新茶の時期には前回の記事でも触れた龍井茶など街の茶館の店頭でもちらほら見かけます。ただ、一年を通じての流通量は、上海や杭州と比べたら圧倒的に少ないのではないかと思います。

この龍井茶と同じように、銘茶であるにも関わらず福建であまり消費されていないお茶として、鳳凰単叢があります。

単叢は、広東省潮州市鳳凰鎮烏ドン山の特産烏龍茶で、薫り高く、贔屓目なしで評してもすごく美味しいと思うのですが、福建と雲南という二大産地に挟まれているためか、どういうわけか地元(のはずの)広東のマーケットでも劣勢苦戦しているという、なんとも不遇を託つ茗茶のように語られてきました。

ところが、その不遇のイメージから脱却するような兆しがここ一二年で感じられます。その象徴が、鳳凰単叢鴨屎香(ヤースーシャン)の流行で、その名前からは俄かに信じがたいのですが、蜜蘭香よりも蜜蘭だということで、単叢フリークの間ではいまや蜜蘭香と人気を二分するまでポピュラーになっています。

私がはじめて鴨屎香を飲んだ時には、実は名を知らずただ単叢ということでいただいたのですが、一口飲んで爽やかに広がる回甘の強さに感動し、「これはなんという名の単叢ですか、まったく苦味がありませんね」と、目の前の、茶を淹れてくれた褐色の女性に尋ねると、傍らの鉄缶の蓋に印刷されている文字「鴨屎香」をコンコンと指さすので、咄嗟に言葉を返すことができず、女性の着ているマゼンタ色のブラウスの襟を数秒間じっと見つめていたのを思い出します。

私にとって、この時の鴨屎香は今までで一番美味しい単叢で、この先も同じ味には二度と会えないだろうと確信しています。「美味しい」という感動は往々にして一回性のもので、同じ条件下においてもその感動は反復されません。だからこそお茶は「美味しい」のかもしれません。

茶商によっては、鴨屎香は大烏葉の別称で、大烏葉単叢の清香タイプが鴨屎香だと説明する人もいます。つまり、鳳凰単叢も鉄観音のように焙煎の軽い清香製法が編み出されて、それが鳳凰単叢の新しい普及に一役買っているということです。

単叢の清香製法は「抽湿」と言われ、焙煎加工の最後に真空状態マイナス40度で冷却をして、その急激な温度変化によって茶葉から水分を抜き去ってしまうという製法です。機会があれば間近で見てみたいものですが、ただ漫然と見てもどうしてこれで茶葉そのものの自然の甘味が顕在化するのかは化学的に理解できないだろうと思います。茶師自身に成分分析的な発想はないので、かなりのトライアンドエラーで生み出された技術に違いありません。

上の画像の鴨屎香も、いままでの伝統的な焙煎の単叢とは違って、だいぶ緑色をしています。茶葉の外見だけ見てこれは単叢かと言われても、私はたぶん分かりません。火入れが軽い茶葉だというのは分かりますが、実際の製造直後はもっと鮮やかな緑色で、常温で保存している数か月の間に色合いが徐々に変化したのではないかと想像します。

抽湿法の鴨屎香が一過性のブームで終わるのか、それとも清香鉄観音のように定着するのかの見きわめは、もうしばらく時間の経過が必要かもしれません。

小林

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