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ジャスミン茶の故郷 - 広西横県茉莉花茶

ジャスミン茶は、その立ち位置が非常に曖昧なお茶です。
良い品質のジャスミン茶に出会ったとしても、人によっては、屋上屋を架すという印象を抱く人も少なくありません。つまり、「なぜこんなにいい茶葉なのにわざわざ花の香りをつけるのか」というわけです。

茶葉にジャスミンの香りをつけるのは、ジャスミンの香りのするお茶が好きな人がいるからだとしか答えようがないのですが、一方で、茶葉は茶葉として純粋にその風味を味わうべきで、どんな手法であれ着香をした茶葉は邪である、と考える茶愛好家の言葉にも一定の道理があります。
結局は好みの問題なのですが、個々の嗜好から離れて是々非々を考えるには、ニュートラルに歴史的な経緯を押さえておくのがいいかもしれません。

ジャスミンがはじめて中国に入ってきたのは、漢代とされています。ペルシャ、インドを経由して、仏教の花として知られるようになったようです。茶に植物を用いて香りをつけるのは、一部、宋の時代の貢茶で行われていたという記述がありますが、現在のジャスミン茶につながるような製法については、さらに時代が降り、明の「本草網目」に記載されています。

広く市井でジャスミン茶が飲まれるようになったのは清代からで、18世紀清代には蘇州で生産された茉莉花茶が北方に普及し、19世紀清代には、福州茉莉花茶がヨーロッパへ輸出されました。福州でのジャスミン茶の製法は20世紀後半に洗練化され、また福州北部(福鼎、福安)の良質な白茶をベースとすることで、ジャスミン茶のステイタス向上に大きく貢献しました。

しかし、ここ10年で福建でのジャスミン茶の生産は激減しています。茉莉花の畑の減少や人員不足、また、ベース茶葉の高騰などがその理由としてあげられますが、特に老白茶ブームの影響は大きく、正しく「なぜこんなにいい茶葉なのにわざわざ花の香りをつけるのか」の言辞そのままに、茶業界全体が大きくシフトしました。

ただ、その歴史的価値から、福州茉莉花茶は伝統工芸としてリスペクトされる傾向にあります。上の動画は、福州茉莉花茶の非物質文化遺産伝承人である陳成忠氏、その父子のジャスミン茶製法を取材したものです。このようにすべての香りづけ(窨制/窨花)工程を手作業で行うジャスミン茶は、本当に稀少になってしまいました。

ジャスミン茶にも「高級品」があるという認識は、福州茉莉花茶の誕生を以ってして生まれたのは間違いありませんが、皮肉にもその認知が強まったのは、当の福州でのジャスミン茶の生産体制が弱まり、稀少になったからだとも言えます。

もちろん、すべての福州茉莉花茶が名茶師の手づくりというわけではありません。大部は機械化を導入した茶工場での生産であり、量産体制を支えるのは、なによりも先ず、豊富な茉莉花茶の生産量です。

ジャスミン茶、生産の中心は広西横県へ

その茉莉花茶の一大生産地として、福州に代わり大きな存在となったのが、広西壮族自治区南寧市の横州市(広西横県/广西横县 guangxi hengxian)です。

広西横県茉莉花茶・ジャスミン畑
広西横県でのジャスミンの花の摘み取り風景

広西横県(广西横县)の茉莉花1980年ごろから始まった茉莉花の移植栽培は、2000年代に入ると本格化し、地域全体でジャスミン茶の生産に力を入れるようになりました。各地の品評会で受賞するようになると、2013年に中国地理表示産品として原産地認証を取得しました。2015年頃までには、横県拠点生産地での茉莉花畑の開梱面積は7,000haまで拡大、地域一帯で茉莉花を育てる農民(花农)は30万人、花茶工場は150企業もの数に増えました。現在、世界のジャスミン茶生産の50-60%が横県産、中国内でも70-80%が横県産の茉莉花を使用していると言われています。(この統計には、国内外の飲料メーカーやチェーン店向けの原材料としての出荷量も含まれていると思われます。)

広西横県の花農家の摘む茉莉花茶つぼみまた、広西横県でのジャスミン茶生産の特徴は、茉莉花の香りづけ工程では福州茉莉花茶の技術を取り入れましたが、ジャスミン茶のベースとなる茶葉(茶坯/茶胚)については、現地産の茶葉にこだわらず、広西以外の茶葉も積極的に取り寄せているということです。各茶工場が、福建、雲南、四川などの高品質な茶葉をタイムリーに仕入れて使用することで、結果としてジャスミン茶の品質を担保することに成功しています。これは、福建の茶葉にこだわった福州茉莉花茶との大きな違いです。実際、広西横県では、緑茶や白茶ベースの一般的なジャスミン茶だけではなく、ジャスミン紅茶やジャスミンプーアール茶等も生産しています。その他、茉莉花を原材料としたアロマや香料、石鹸など、美容系商品の開発・普及にも力を注いでいます。

広西横県茉莉花の畑
「中国茉莉花茶の故郷」広西横県、茉莉花の苗を植えて育てます。

横県茉莉花ジャスミンのつぼみ
広西横県ジャスミン(茉莉花)のつぼみ

茉莉花の摘みとりは、毎年5月から10月までがシーズンで、夏の7月-8月の季節が最盛期となります。晴れた日の正午前後から、夕方4時ごろまで摘みとりをします。そして、花市場に集められた大量のジャスミンのつぼみは、当日の夜には香りづけを行う茶工場へと運ばれます。
真夏の炎天下の摘みとりは花農家にとって辛い労働ですが、茉莉花の品質は夏の暑い時期のほうが良く、売値も上がります。この農家さんたちの努力なくして、香り高いジャスミン茶を味わうことはできません。

下の動画は、「農村スーパーモデル」として中国SNSで人気の陸仙人が、故郷の横県の茉莉花畑を訪れた際のものです。「小さい頃、おばあちゃんに連れられて茉莉花の摘みとりをした。僕の子供時代の悪夢さ。」 手馴れた感じでジャスミンのつぼみを一つずつ摘みとる様子が分かります。

白龍珠から女王環へ

「良質な茶葉」
「豊富で新鮮な茉莉花」
「優れた香りづけ技術」

これが、美味しいジャスミン茶をつくるための三つの条件です。
福州茉莉花茶の技術を引き継ぎながら、現在、この三つの条件が過不足なく揃っているのが、広西横県の茉莉花茶になります。

清香花楼では、福州白龍珠王(コロコロジャスミン茶)をはじめ、福建省産のジャスミン茶を販売してきましたが、2021年は広西横県産(横県での香づけ)のジャスミン茶を仕入れました。

ジャスミン茶 茉莉女王環
ジャスミン茶・茉莉女王環/ジャスミンクイーン

特に、茶葉がリング状にくるりと丸まったジャスミン茶・茉莉女王環は、福州白龍珠王と同等クラスの高級ジャスミン茶です。小ぶりの茶器で煎数を重ね、香りや味の変化を存分に堪能することができます。

また、横県茉莉花茶の日用茶葉としては、ジャスミン茶・茉莉銀毫をお勧めいたします。ベース茶葉は女王環ほど良くありませんが、こちらも横県の同工場にてしっかり丁寧に香りづけされており、本物の香りのジャスミン茶を楽しむことができます。

ちなみに、仕入れ元の茶工場は、ISO22000やSGS認証など国際食品規格を取得しており、茉莉花も自社管理の畑で生産したものを使用しています。

茉莉花 - 人间第一香

茉莉花 人间第一香中国では、ジャスミンの花の香りを讃えるのに、本の扉や商品パッケージなどで、しばしば引用される古詩があります。

灵种传闻出越裳,何人提挈上蛮航。
他年我若修花史,列作人间第一香。

— 宋代 江奎《茉莉花》 其一

大意としては「茉莉花は南の国から来たらしいが、一体誰が持ち運んだのだろう。いつか私が花の史書を書き換えることがあるなら、茉莉花こそ、この世で一番の香りと記したい。」といったあたりでしょうか。

アロマとしても楽しめるジャスミン茶。
茶器の蓋やカップの残り香をそっと嗅いでみてください。鼻腔から脳へと、深く、華やかなジャスミンの香りがすうっと広がるはずです。
横県茉莉花茶で、ぜひ自分だけの癒し時間をお過ごしください。

この記事を書いた人
販売 小林

今回入荷の二つのジャスミン茶、ともに2020年産になります。2020年の春の茶葉に、2020年8月の横県茉莉花で5回香りづけを行なっております。

清香花楼チンシャンファーロウについて

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